2013年12月11日、本屋B&B(東京・下北沢)でのトークイベントの後、お相手くださった小林浩さんから、追加でいただいたメッセージ

内沼さんの論点はいずれも業界人にとっては反論の余地のない課題ではないかと思います。

問題なのは、反論の余地のないパーステクティブを、より課題の具体的な対象に近づく際に、業界人がなぜ展開・実行に移さなかったのか(もしくは目論見や見通しを実展開に移したがうまくいかなかった、あるいは構想倒れに終わった、もしくは実行途中で諦めてしまった等々)を検証することではないかと感じました。

そういうモヤモヤ感(割り切れなさ)は、利害の再配分をめぐる静かな長い争いにその根があるのではないかと私は見ています。しがらみとか旧習と言ってもいいし、伝統や良識とすら言っても構わないのですが、ゆえあって先人から受け継いだそうした土俵で戦うことを選んだ人々の中には、内沼さんが示したヴィジョンを綺麗事として無視しようとする向きもあるだろうと予想できます。

でも本屋や本が「もっと自由でフレキシブルなものなのではないか」という本書の核心的な提起は、誰もが希望として抱きうるものです。そこに「むろん現実には色々な制約があるが」という小声の補足が付くにしても。

『本の逆襲』は、多くの人に、もう一度自分の仕事を考え直すための叩き台を用意してくれたと思います。内沼さんは新たにスタートラインを引き直したのです。

それが、『本の逆襲』の登場を祝福するゆえんです。

最後に一言、内沼さんにこの言葉を贈ります。イスラーム神秘主義の代表的な詩人、アフマド・ジャーミー(1414-1492)の言葉です。

「「知恵は本の中にある。たとえ賢者が墓の中におろうとも」。/本とは孤独における親友、知恵の暁光。それは報酬も恩義も要求せず、いつでもお前に知識の道をひらいてくれる師。皮は隠してお前に真髄だけを馳走し、隠れた思想を無言のうちにお前に伝えてくれる腹心の友。バラの蕾のように花弁(頁)に満ちて、その一枚一枚は真珠を盛った皿。そして本は鮮やかな色のモロッコ革の駕籠のようなもの。その中にはバラ色の肌着をきて、頬に麝香の斑点(つけ黒子)をつけた美女が二百人、みな同じような顔で同じような服を着て向かいあい、互いにやさしく頬を寄せあっている。もしも誰かが彼女らの唇に指をあてれば、何千という珠玉を秘めた物語のために彼女らはやさしく口をひらく」(ジャーミー『ユースフとズライハ』岡田恵美子訳、東洋文庫(平凡社)、2012年、276-277頁)。

小林浩(月曜社取締役)


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